Smoky life in Rochester

Rochester大学にポスドク留学中の日記。膠原病専門。

労働、余暇、リスペクト

勤務が始まって10日が経ちました。それにしても週末2日が必ず休みって良いですね。仙台で大学院生をやっていたときや、あるいは勤務医として病院にいたときは、週末どちらも休みというのが無いわけではなかったのですが、「あれ、明日当番だっけ?!」とか、「電話が鳴るかもしれないから持っておこう」とかあって、なんだかんだ「身も心も完全オフ」という日は少なかったんですよね。医師の過労対策というのは前々から言われていたことで、外勤先の帰りに居眠り運転をして事故を起こしてしまうとか、そういった事例もあって、最近ではいかにして勤務時間を管理するかということになっていて、それはもちろん「社会問題化」した結果としての「対策」なのですが、大学病院ぐらいの大病院でそういった管理をしようとすると、今度はその管理システムをめぐって連日説明会が行われて、その影響で事務方が残業に追われて、ということになっていきます(なっているなぁ、と横目に見ながらこちらに来たかたちですw)。
それでも相当に労働意識って変わってきましたよね。10年前に私が外科とかにも興味を持っていた時(笑)、いくつか外科医の書いたエッセイとかを読んだことがありますが、「留学から帰ってきた時は財布にほとんど残っていなかった」(!)からの、「最近の外科医はこういった経験をしておらず、ハングリー精神が・・・」云々(!!)といった内容のものが珍しくありませんでした。今はさすがに10年前にような根性論は少なくとも大っぴらには言われない(言うと炎上する)ようになってきましたし、社会全体としても、実際にどこまで改善しているかは別としても、少なくとも「働き過ぎないこと」への意識が、特にパンデミックを経て、格段に上がったと思います(もちろん待遇の格差は社会全体に広がっていますが)。こうした意識は、性暴力やセクハラへの反発だったり、結婚しないことへの寛容だったりと並行してきていて、平たくまとめれば「自分を大切にすること/自分を誰かの道具にしないこと」への意識が向上している結果とも言えそうですがどうなんでしょう。あるいは、会社や組織への忠誠心といったものが自然な成り行きで薄れていっているということでもあるかもしれません。以前『仲人の近代』という本を読みましたが、明治から延々と続く結婚の仲人の系譜を語っていて、特に昭和から平成、そして失われた30年へと続く過程で、会社が社員の世話をしていた時代が終焉するとともに、会社の上司による結婚の仲介といったエピソードもほとんどなくなってきたという流れが非常にクリアに語られていました。現代の「仲人」はアプリ、そして地方によっては官製お見合いですね。そう考えると、ある意味では「面倒を見てくれる存在」の喪失、また別の意味では「個人の裁量」の拡大ということで、医療でもパターナリズムと自己決定権の問題として応用できる構図だと思います。
たまにYahooとかに掲載されている女優さん(女性の俳優が多いです)のインタビューとか読むと、多くの人が口を揃えてセルフケアの重要性を言っていますし、芸能界も変わってきたところがありますよね。(ちなみに芸能関係者がよく使う「コンプラ意識」という言葉はまたニュアンスが違うと思いますし、視聴者が求めているのは「コンプライアンス」ではなくて「リスペクト」なんだろうと思います。)
そういう文脈もありつつ、近年の生成AIの急速な進歩とそれに伴う労働形態の変化の兆し/予感といった問題も片方にはあって、ことはもっとややこしいとは思いますが。あ、外勤がないという話でどんどん脱線してしまいました。僕自身も土曜日に当番じゃないのにカルテを見に行ったりとか、全然やっていましたからね、土日フリーが基本の環境では暇を潰すのが大変です(笑)

ちなみにまだ研究は始まってません。というのも、実験や研究活動をするための、オリエンテーションやオンライントレーニングをこなさないといけないからです。オリエンテーションで思わず「おおっ」となったのが、"Active Shooter"という、銃乱射の現場に遭遇したときの対応のビデオ教材ですね。オフィスに入ってきたサングラス姿の男が、そのままショットガンを手に取って撃ち始めるのですが、いくら教材とはいえ、ずいぶんリアルで、結構見ていて怖かったですね。特に、「安全な場所へ急いで避難する」とか「室内の道具でドアを塞ぐ」といった対策の他、「それでも部屋に入ってくるときは、手持ちの道具で戦う」という指南もあり、これがめっちゃ怖かったです。
あとはインフォームドコンセントの取り方についてのビデオ教材も結構本格的でした。患者さんが座っているところに、気さくな研究コーディネーターが入ってきて、まずは向かい合った状態でお話します。それで、「大まかな流れは以前にも説明したけど、あなたには細かいところまで理解したうえで同意するかどうかを決断してほしい」と言って、分厚い研究計画書を渡します。患者さんが「うわ、こんなにたくさん、、、表紙だけ読んで、残りは家で読んじゃダメなの・・・?」と少し狼狽えながら聞くのですが、するとコーディネーターがすっと立ち上がって、「わからない用語や内容があればこの場で質問して、ここで理解してほしい。」と言いながら患者の後ろを回りこみ、隣の椅子に腰掛けて、「そのために私がいるのです」と満面の笑みを炸裂させます。この間合い!コリオグラフ!カメラワーク!アメリカ映画すぎる!と勝手に興奮してしまいました。

 

あ、ちなみに先日はThe Little Theaterで、アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』の35mm上映に行ってきました。月曜の夜なのにめっちゃ人来てて、お前ら映画好きだな〜wと思いましたね(笑) 『サイコ』はジャネット・リーがシャワー浴びているところで無惨にも殺されてしまうシーンがあまりにも有名ですよね。(基本的にサイコホラーなわけですが)ちょっとしたシーンでみんなよく笑うし、なんか喋くりながら見ている人達もいるのですが、このシャワーのシーンだけはみんな息を飲んで見入ってましたね!シャワーカーテンもろとも倒れ込み、風呂の排水溝へと血が流れていくショットから、ジャネット・リーの目のアップショットに切り替わるところ、凄いなぁ。

帰りにバスを待ってたら、おっちゃんが話しかけてくれて「どうだった?」「見るのは3回目だけど、スクリーンでは初めてだった!超最高だった!」「そうなの?俺はシャワーのシーンしか知らなくてその後の展開は初めて見たよ!」みたいな会話をしました。

今日は今日で、イーストマンハウスの方で、ポーランド映画を見ました。

なんというか、自分がもし東京の大学に行っていたら、連日渋谷や新宿の名画座に入り浸って留年していただろうなと前から思っていたのですが、このタイミングでそういう環境に来てしまうとは予想外でした。研究頑張ります。

ではまた。

イーストマンの方も豪華。手袋忘れて帰ってしまいました。